前項では、ひとつのテーマに即して数冊から数十冊を固め読みする読み方を紹介しましたが、それと同じような本の選び方が、ひとりの作者もしくは著者の書いた本を、次々固め読みするという方法です。一冊読んでみて、内容や語り口が気に入った著者があったら、そのままその人の本をどんどん読んでいきましょう。

気に入った人の本は、不思議なくらい次々読みたくなっていきます。また、片っ端からその人の本を読んでいくと、そのうち全著書を制覇したいような気持ちにもなり、本を読みたくなる気分が維持できるでしょう。

初期のものから順に読んで行けば、作風の変わり方が感じられて面白いものですし、お気に入りの作家の特徴、一貫した考え方もつかめて、よりファンになるようになるかもしれません。また、他の人と本の話をする時に、たとえば誰かの書いた本ならばこれだけたくさん読んでいる(ほぼ全部読んでいる)、という話ができれば、それだけ話も盛り上がるし、人にも堂々と読んでいます、と言えるようになります。そのうち誰々さんの本に詳しいあなた、という評価がついて、一目置かれるようになることもあるでしょう。

また、学術系の本や知識を手に入れるための本の場合は、ひとりの人の本を続けて読むことによって、その著者の知識や考え方を、ますます詳しく的確に理解することもできるようになります。

書き手の方も、一冊本を出したあと残った、書き足りなかった分や新しい見解を発表するためにさらに本を出すことが多いので、それらを続けて読むことは、著者の考えのより深い理解に繋がりますし、今まで読んだ蓄積がある分、初めて読む著者の著作を読むときよりは書いてあることも判りやすい頭になっています。また、出された本のどれか一冊を読んでいるだけの状態より、もっとよくその事柄に通じるようになることができます。

さらに、その人の著書に通じるということは、それを書く人の思考法や視点も獲得できるということですので、自分自身の視野を広げたり、新しい視点を手に入れることができたりもします。

そのようにして、ある著者についてひとつのまとまった見方や評価を作っておくと、他の著者の本を読んだ時にも、両者を的確に比較することもできるでしょう。そうなってくると、今後何か新しい本を読んだとしても、その著書や著者の立ち位置や主張がすぐわかるようになる、その本の価値や意味を読み取れるようになる、つまり本を見る目が肥えるということになるのです。

また、ある人の著作をそうして読んでいくうちに、おかしく感じる矛盾や考え方の変化、書かれていることに一貫性がない、などということを感じるようになれば、それはその著者が信頼に値しないのだとわかりますので、一冊だけを読んで下手にその著者を高く評価してしまうような誤りを犯すことがなくなります。普段から本をよく読んで勉強しているような人は、話題だからと言ってさして信頼するに足りない著者の本を、一読してやたらありがたがっているような人はすぐに見破ってしまいます。それは自分の評価を下げてしまいかねませんので、それを避けるためにも、もし話題にしたい本が見つかったなら、その著者の他の本も、数冊は読んでおくことをお勧めします。